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亡くなった家族の遺産の分配は、人生の中で何度も経験するものではありません。
また、テレビやドラマなどでは遺産をめぐる親族間の争いがテーマになるものも多く、「どうやって分けたらよいのだろう?」と不安に感じている人も多いと思います。
そこで、この記事では、
- ・遺産を分配するための基本的なルール・方法
- ・遺産の分配をめぐって起こりうるトラブルの具体例
- ・遺産分配をめぐるトラブルに巻き込まれないための対応方法
などについて解説していきます。
すでに相続がはじまっているのに「どうして良いかわからない」という人だけでなく、将来の相続に備えて知識を得ておきたいという人も参考にしてください。
もくじ
遺産の分配・分割はどうやればいい?
最初に、遺産の分ける方法や基準について法律がどのように定めているかを確認しておきましょう。
法定相続人とは?
亡くなった人の遺産などを受け継ぐ人のことを相続人といいますが、法律では、民法887条以降が相続人(相続権)についての規定を設けています。
この法律(民法)が定めている相続人のことを「法定相続人」とよびます。
法定相続人となる人の範囲は、死亡した人(被相続人)の家族構成(配偶者や子の有無)によって異なりますが、次のように整理することができます。
- ・配偶者は常に相続人となる
- ・配偶者以外の人は、次の順位で配偶者と共に相続人となる
※上の順位の者がいるときには下の順位の人は相続人とはなれない
相続の優先順位は下記のとおりです。
- 死亡した人の子(直系卑属(ひぞく))
- 死亡した人の直系尊属(そんぞく)(父母・祖父母・曾祖父母など)
- 死亡した人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡しているときにはその子)
「相続では上下の関係(親子)の関係の方が横の関係(兄弟)よりも優先」と覚えておけばよいでしょう。
法で決められた遺産分配の割合(法定相続分)
民法は、相続人の範囲だけでなく、相続人が複数いる場合に、それぞれが遺産を受け取れる基本となる割合についても定めています( 民法第900条 – Wikibooks)。
これを「法定相続分」といいます。
法定相続分は、相続人の組み合わせによって下のようになります。
- ・配偶者と子が相続人である場合:配偶者1/2、子1/2(子が複数いるときは均等割)
- ・配偶者と直系尊属(父母など)が相続人である場合:配偶者2/3、直系尊属1/3(直系尊属が複数いるときは均等割)
- ・配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数いるときは均等割)
たとえば、
相続人が、妻と長男、長女の合計3人であるときには、
- ・妻の相続分:1/2
- ・長男の相続分:1/2☓1/2=1/4
- ・長女の相続分:1/2☓1/2=1/4
となります。
「遺留分」とは相続人が取得できる最低限の遺産分を保障するもの
民法は、法定相続分とは別に、もうひとつの遺産分配の基準を定めています。
それが「遺留分」です。
遺留分とは、民法が相続人に保障しなければならないと定めている「最低限度の相続財産の取り分」のことです。
下でも解説するように、法定相続分の規定には、法的な強制力はありません。
法定相続分は、あくまでも「相続人の間で相続分について決まりがないときには、裁判所がそのように判断しますよ」という基準に過ぎないのです。
他方、遺留分には、一定の法的拘束力があります。
遺留分以下の分配しか受けられなかった相続人には、他の相続人に対して遺留分に属する相続財産と取り戻す権利が認められているからです(民法1031条:遺留分減殺請求)。
ただし、遺留分を侵害したということだけで相続が無効となるわけではありませんし、相続人が遺留分を放棄することも可能です。
遺留分が認められている人
民法で遺留分が認められているのは、
- ・配偶者
- ・直系卑属(子・孫など)
- ・直系尊属(父母・祖父母など、被相続人に子がいない場合のみ)
です。
「兄弟姉妹」には遺留分は認められていないことに注意が必要です。
遺留分はどれくらいか?
遺留分は、原則として、法定相続分の1/2となっています。
たとえば、妻と子が相続人である場合には、それぞれ1/4が遺留分となります。
ただし、「直系尊属(父母など)のみ」が相続人となる場合の遺留分は、「被相続人(亡くなった人)の財産の1/3」が遺留分となります(被相続人に配偶者も子もおらず、父母が相続人となったときの遺留分は、それぞれ1/6ずつ)。
法定相続分はあくまで目安 実際には相続人に分配割合はゆだねられている
遺産(相続財産)を分ける基準は、法律に一定のルールがあります。
一方で遺産の分配は、「相続人が自由に決める」ことができます。
「家族のことについては、余計な口を挟まない」というのが民法の基本的な考え方だからです(私的自治の原則)。
上でも解説したように、法定相続分は「相続人で決まりがないときの判断基準」に過ぎません。
それと同様に、遺留分についても「遺留分以下の取り分しかなかった相続人に不満がない」のであれば、問題にはなりません。
法定相続分と異なる割合で遺産分配したい場合にはどうしたらよいか?
法定相続分とは異なる割合で遺産の分配を行うためには、「相続人全員の同意」に基づいて、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
遺言書がある場合にはどうなるのか?
「遺産分配の内容は相続人で自由に決められる」という原則に対する例外が、「遺言(法律家は「いごん」と読むのが一般的です)」がある場合です。
遺言があるときには、その作成方法・記載内容が法律に違反している場合を除いて、「相続人の意向よりも優先する」のが原則です。
そもそも遺産は、亡くなった人(被相続人)が築いたものですから、その本人の意思が優先されるというのは、当然ともいえます。
遺言書を見つけたらどうしたらよいか?
被相続人が死亡した後に遺言書を見つけたとき(あるいは、すでに遺言書があることを知っていたとき)には、相続人であれば、どうしてもその内容が気になると思います。
しかし被相続人が死亡した(遺言書を見つけた)からといって、相続人が厳封された遺言書を勝手に開封(記載内容を閲覧)してはいけません。
封をされた遺言書の開封は、家庭裁判所において相続人(またはその代理人)の立ち会いの下で行われる必要があるからです( 民法第1004条 – Wikibooks)。
このような手続きが必要なのは、遺言書の改ざんなどを予防するためです。
この規定に違反したときには、5万円以下の罰金に科される場合があるほか、相続人の資格を失う場合もあります。
遺産分割協議を行う方法
遺産分割協議は、相続人全員で行う遺産の分配についての同意を取り付けるための話し合いのことです。
実際の相続の多くのケースでは、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。
※当然のことですが「相続人が1人しかいない」ときには遺産分割は必要ありません。
遺産の分配(遺産分割協議書)が必要なケースと不要なケース
遺産分割協議書を必ず作成しなければならない(遺産分割の話し合いをしなければならない)のは、次の場合です。
- ・不動産の相続登記をする場合
- ・相続税を申告(軽減のための特例措置を利用)する場合
これらの場合には、「遺産分割の内容が正しいこと」を第三者に証明するために遺産分割協議書が必要となります。
他方で、
- ・遺言に書かれた内容どおりに遺産分割する場合
- ・遺産が現金・預金だけの場合
には、遺産分割協議書は不要です。
遺言がある場合には、その後の手続きでは遺言書(の写し)を提出するため、遺産分割協議書は不要です。
また、現金の分配には特別な手続きは不要ですし、預金を引き出すときには、銀行が定める用紙に相続人全員が必要事項を記入することで対応できます。
遺産相続の対象となるもの・ならないもの
遺産(相続財産)は、「被相続人死亡したときに、被相続人に属するすべての権利義務」が対象となるのが原則です(民法第896条 – Wikibooks)。
つまり、不動産や現金・預貯金、債権(他人に支払いなどを求められる権利)といったプラスの財産だけでなく、借金、未払い金(カードの利用残額)や税金といったマイナスの財産も含まれます。
しかし、次の財産(権利義務)については、例外的に遺産分割の対象とはなりません。
- ・墓、位牌、仏壇などの祭祀にかかわるもの:祭祀を引き継ぐ者が相続します
- ・一身専属権
一身専属権とは、「権利の性質上、本人にのみ効果の生じる権利義務」のことをいいます。
具体的には、年金請求権、扶養請求権、慰謝料請求権などがあります。
これに加え、「相手に婚姻を求める権利」のような身分にかかわる権利も相続(遺産分割)の対象にはなりません。
遺産分割協議の対象となる人とは
遺産分割協議は、遺産の相続に関係する「すべての人」が集まって行わなければなりません。
協議に加わる者が欠けている遺産分割協議は無効です。
ここで注意しなければならないのは、遺産の相続に関係するのは、「自分の家族」だけではない場合もあるということです。
遺産分割協議の対象となるのは、「法定相続人」と「包括遺贈を受けた人」です。
代襲相続(世代が1つ先の孫が相続するような場合)が発生する場合や、認知された婚外子がいるような場合には、法定相続人の脱漏が発生しやすいので注意が必要です。
また、法定相続人以外に「包括遺贈された人」がいる場合には、この者も加えて遺産分割協議を行わなければなりません。
「包括」遺贈とは、「特定の財産」を指定されずに、その「財産割合のみ」を示して遺贈を受けた人のことをいいます。
たとえば、「認知されていない婚外子」や「内縁関係の者」、「老後の世話をよくした縁故者」などは、被相続人から包括遺贈を受けている可能性があるでしょう。
※これに対して「現金100万円を遺贈する」、「〇〇市☓☓の不動産を遺贈する」というようなケースを「特定」遺贈といいます。
個別の財産を分割する方法
財産を具体的にわける方法には、
- ・現物分割
- ・代物分割(代償分割)
- ・換価分割
- ・共有分割
の4つの分け方があります。
現物分割
現物分割とは、「不動産は妻」、「現金は長男」、「預金は長女」といったように、特定の相続財産を特定の相続が受け継ぐという、最も基本的な遺産分割のやり方です。
代物分割・代償分割
代物分割(代償分割)とは、遺産を分けて相続することが難しい場合に、財産を受け継いだ相続人が、財産を直接受け継がなかった相続人に対して、相続に代わる給付(代物・代償)を行う方法のことをいいます。
たとえば、遺産が不動産(2,000万円)しかないという場合に、兄がその不動産を全部相続する代わりに、弟に相続分相当額の金銭(1,000万円)を支払う場合が、代物分割(代償分割)の例として挙げられます。
換価分割
換価分割とは、不動産や高価な貴金属のように「物理的に分ける」ことが難しい時に行う方法です。
そのような財産を売却して得られた代金を、相続人間で取り分ける分割方法のことを換価分割と言います。
共有分割
共有分割は、相続財産を相続人が共同で所有する場合のことをいいます。
たとえば不動産について、「それぞれの相続分に応じた持分を設定する」ことは、共有分割の典型例です。
遺産分割協議の手順
実際に遺産分割協議を行う際の流れについて解説していきます。
- 相続人全員が参加し、相続人を確定させる
- 相続財産を調査し、財産目録を作成する
- 遺産分配協議を行う
- 相続人全員の同意をもって遺産分割協議書を作成する
- 合意に至らなければ遺産分割調停を行う
- 調停でも合意できなければ遺産分割審判を行う
1.相続人全員が参加し、相続人を確定させる
遺産分割協議を行うときに、最初に行うことは、「相続人を確定させる」ことです。
多くのケースでは、「誰が相続人」であるかは、きちんとわかっている場合が多いと思いますが、
- ・兄弟が多すぎる場合
- ・何十年も連絡の取れない親族がいる場合
- ・代襲相続が発生している場合
- ・家族外に相続人(認知済みの婚外子)がいる可能性がある場合
- ・受遺者(遺言を受けている人)が家族外にいる可能性がある場合
には、注意が必要です。
特に相続人の数が多いほど、「連絡の付かない相続人」が存在し、遺産分割協議を進められないというトラブルが起こる可能性が高くなるからです。
相続人が1人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議には法律上の効力は与えられません。
万が一ということが起きないように、相続が発生したときには、必ず
「被相続人が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本・除籍謄本」などを取得してきちんと調査しましょう。
また、遺言書があるときには、遺産分割協議の内容にも大きな影響が出ますので、遺産分割協議を始める前に、「遺言書の捜索」も必ず行うべきです。
相続人が確定したところで、それぞれの「法定相続分」について確認しておくと、なお良いでしょう。
2.相続財産を調査し、財産目録を作成する
相続人の確定とあわせて、遺産分配の対象となる相続財産を確定させる必要があります。
実際の相続では、「亡くなった家族(被相続人)がどのような財産をもっているか全部把握できていない」というケースは珍しくありません。
家族とはいえ他人なので、「内緒にしている財産」があることは珍しくないからです。
特に、「家族の知らない借金」の存在が疑われるときには、入念に財産調査を行うべきです。
相続人は、被相続人の負債もまとめて相続しなければならないからです。
相続財産を調査する方法としては、
- ・被相続人の自宅を探索する
- ・郵便物を調べる
- ・被相続人が使っていたパソコンのデータを調べる(知らない有価証券や貯金の調査)
- ・名寄せ帳を調べる(所有不動産の調査)
- ・残高証明書を取得する(預金の調査)
- ・信用情報を照会する(借金の調査)
といった方法が考えられます。
最近では、ネットを通じてさまざまな取引を行えるので、受信メールやウェブブラウザのアクセス履歴などを確認することで、家族が把握していない有価証券や口座開設などの取引を調査することができます。
被相続人が所有していた不動産を調べるには、「名寄せ帳」を取得することが有効です。
名寄せ帳は、それぞれの自治体ごとに課税対象不動産をまとめたものです。
ただし、名寄せ帳に記載されているのは「課税対象」となっている不動産のみです。
たとえば、公衆用道路に供している不動産(家の前の私道など)は、名寄せ帳の掲載対象から除外されています。
非課税の不動産があるときには、法務局で公図・登記簿謄本の調査をする必要があるので、司法書士などの不動産登記の専門家に依頼した方が確実といえます。
そもそも、「相続の対象となる財産がたくさんありそう」というケースでは、相続財産の調査、目録の作成を専門家に依頼してしまった方が確実で楽な場合が多いでしょう。
相続手続きは、
- ・相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月以内)
- ・相続放棄の申述期限(相続開始から3ヶ月以内)
といった制限期間があるので、時間的な余裕がないケースも少なくないからです。
たとえば、四十九日法要が終わってから相続の準備をはじめるといったときには、相続放棄までは残り2ヶ月以下しか時間は残されていないのです。
3.遺産分配協議を行う
相続人と相続財産の範囲を確定させることができたら、相続人(および受遺者)全員で遺産分割のための話し合いを行います。
「全員で話し合いをする」といっても、同じ場所に全員が集合しなければならないというわけではありません。
「遠くに住んでいる人がいる」という場合には、メールや電話、ファックスといった方法を用いることで話し合いを行うのでもかまいません。
ただし、対面での話し合いではない場合には、「意思疎通がうまくできなかった」、「誤解・勘違いがある」といったことが原因で、後にトラブルになることも珍しくありません。
「伝えていない情報はないか?」、「確認できていなかったことはないか?」といった点を慎重に見極めることが重要でしょう。
また、相続人の中に未成年者がいるときには注意が必要です。
その未成年者の親も相続人であるときには、親ではない「特別代理人」を選任する必要があるからです。
未成年の子もその親も共に相続人という場面では、子と親には利害関係の相反があるので、親は法定代理権を行使すべきではないからです。
同様に、相続人の中に、認知症の人がいるときには、遺産分割協議に先立って「成年後見人」を選任してもらう必要があります。
4.相続人全員の同意をもって遺産分割協議書を作成する
相続人全員の間で同意が得られたときには、その内容を「遺産分割協議書」としてまとめます(多数の相続人の意向を他の相続人に押しつけるようなことはできません)。
遺産分割協議書には、
- ・被相続人の本籍、最後の住所、氏名、死亡日
- ・相続の内容(誰がどの財産を取得するのか)
- ・遺産分割協議書の作成年月日
- ・相続人全員の署名・押印(実印)
が必要です。
下は、遺産分割協議書の一般的な記載例です。
遺産分割協議書(記載例)
本 籍 最後の住所 被 相 続 人 (令和〇年☓月☓日死亡)
上記の者の相続人全員は、被相続人の遺産について協議を行った結果、次の通り分割することに同意した。
1.相続人〇〇は次の遺産を取得する。 【土地】※登記に記載されているとおりに記入する 所 在 地 番 地 目 地 積 【建物】※登記に記載されているとおりに記入する 所 在 家屋番号 種 類 構 造 床 面 積 1階 2階
2.相続人☓☓は次の遺産を取得する 【現金】 金〇〇円 【預貯金】 ○○銀行○支店 普通預金 口座番号00000000 ○○銀行○支店 定期預金 口座番号00000000 【株式】 ○○株式会社 普通株式 〇〇株
3.〇〇は、第1項記載の遺産を取得する代償として、◇◇に対し令和〇年☓月☓日までに、金△△円を支払う。
4.本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については・・・(相続人の間で決めた内容を記載)
以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、本協議書を何通作成し、署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。
令和〇年☓月☓日
【相続人全員の署名押印】 住所 氏名 実印
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5.合意に至らなければ遺産分割調停を行う
相続人同士では、任意の同意が得られないというときには、家庭裁判所の手続きで遺産分割のための話し合いを行います。
家庭裁判所における遺産分割の手続きには、
- ・遺産分割調停
- ・遺産分割審判
の2つがあります。
一般的には、まず「遺産分割調停」を行い、それでも合意が得られなければ審判を申し立てるというのが一般的です。
遺産分割調停では、相続人は「申立人」と「相手方」に別れることになりますが、実務的には、「調停を申立人以外は、全員相手方となる」と考えるので、賛成・反対の区別を意識する必要はありません。
調停を行う裁判所は、
- ・相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所
- ・当事者が合意で定めた家庭裁判所
となります。
遺産分割調停を申し立てる際に必要な書類などは下記のとおりです。
- ・申立書
- ・当事者等目録
- ・遺産目録
- ・相続関係図
- ・申立ての実情
- ・特別受益目録
- ・収入印紙(被相続人1名に対し1200円)
- ・郵便切手(裁判所ごとに必要枚数が異なる)
提出書類の様式などは裁判所に備え付けられている場合が多いですので、問い合わせてみると良いでしょう。
6.調停でも合意できなければ遺産分割審判を行う
遺産分割の最終的な方法は、家庭裁判所で行われる遺産分割審判です。
遺産分割は、離婚の場合とは異なり調停前置主義が採用されていないので、遺産分割調停を経ていない場合でも、いきなり審判を申し立てることは可能です。
ただし、調停を経ていない場合には、裁判所の裁量で事件が調停に付されることもあります(ので、まずは遺産分割調停を行った方がよいでしょう)。
遺産分割審判では、相続人それぞれの言い分を聞き、証拠を調べることで、裁判所が遺産分割の内容について決定を下します。
遺産の分配割合は相続税に影響する?
相続によって亡くなった人の遺産を取得したときには、相続税が発生する場合があります。
相続税負担の有無や相続税の金額は、実際に相続で取得した財産の程度によって変わりますから、遺産分配の割合は、相続税の負担に大きな影響を与えます。
ところで次の財産は、法律上は「相続財産」とはなりませんが、相続税の対象となることがあります。
これを「みなし相続財産」といいます。
- ・生命保険金
- ・死亡退職金
生命保険を例に挙げれば、「相続人が死亡保険金を受け取る場合の保険料を被相続人が負担していた」という場合には、相続財産(遺産分割)の対象とはならなくても、相続税の対象となります。
ただし、受け取った死亡保険金などが500万円☓法定相続人の数の金額を超えないときには、みなし相続財産による課税はありません。
なお、死亡保険金によって特定の相続人が多額の財産を取得した(被相続人が特別に便宜を図っていた)という場合には、特別受益の観点から相続割合の調整が必要となる場合もあります。
遺産相続は放棄もできる
相続は、「被相続人のすべての権利義務」を「すべての相続人」で受け継ぐのが原則です。
しかし、相続人が多額の借金を抱えているというようなケースでも、相続人に相続を強いることは気の毒です。
また、相続税を負担しきれないというケースもあるかもしれません。
そのようなときには、遺産相続を放棄することができます(相続放棄)。
相続放棄は、相続開始から3ヶ月以内に相続開始地を管轄する家庭裁判所に申述することで行います。
相続放棄があったときには「放棄した相続人は最初から相続人ではなかった」という扱いになります。
少し難しい表現ですが、「放棄した人はいなかった」と考えて相続分を決めると理解しておけばよいでしょう。
たとえば、
相続人が、「妻」、「長男」、「長女」の3名であったときの法定相続分は、
- ・妻:1/2
- ・長男:1/2☓1/2=1/4
- ・長女:1/2☓1/2=1/4
です。
この場合に、長男が相続放棄をしたときの法定相続分は、
- ・妻:1/2
- ・長女:1/2
となります。
「長男の相続分である1/2を妻と長女で分ける」という形にはならないので注意が必要です。
遺産を分割しないまま放置するとどうなる?
遺産分割をしないまま放置したとしても、法的責任を問われるということは(いまの法律では)ありません。
しかし、遺産を分配せずにそのまま放置していれば、次のような事実上のデメリットが生じる可能性があります。
- ・被相続人の銀行口座が凍結される
- ・不動産を処分することができない
- ・今後共同相続人が増えることで権利関係が複雑になり、ますます処理が大変になる
相続の手続きを行わなければ、被相続人の遺産を処分するためには、常に「相続人全員の同意」が必要となります。
遺産分割前の相続財産(遺産)は、相続人(および包括遺贈者)全員の共有財産となるからです。
全員の同意を得るのが面倒だからと、銀行口座をそのまま放置していると、長期間取引のない「休眠口座」として口座が凍結(管理が銀行から預金保険機構に移管)されてしまいます。
※民法(相続法)改正により被相続人の預金は、一定の手続きを経ることですべての相続人の同意がない場合でも仮払いを受けることができるようになります。
不動産についても、所有者名義人の変更(所有権移転登記)が行われなければ、処分することはできません。
また、相続人としての地位はさらに相続されます。
放置の期間が長くなれば、相続人の地位がその子などにさらに相続されることによって、「だれが相続人であるのか」もわからない状態に陥ってしまうリスクも生じます。
近年問題となっている、いわゆる「所有者不明の土地や建物」には、相続を放置してしまったことにより、真の所有者を調査しきれない状態になったことが原因となっているものが少なくありません。
特に、遺産の経済的価値が小さいときには、「わざわざ手続きをするのが面倒」と感じて、遺産分割の手続きを放置してしまうことが少なくないようです。
しかし、遺産分割を放置してしまったことで、自分の子などの将来の世代に迷惑をかけるリスクが生じてしまうことには注意しておくべきでしょう。
遺産の分配でもめないためには
遺産分割をめぐる親族間の争いは、誰にでも起こりうるとても身近な問題です。
また、遺産の分配をめぐるトラブルは、今後の人間関係に多大な影響を与えることが少なくありません。
「ウチの家族は仲が良いから大丈夫」、「わたしの子は相続なんかでは揉めない」と思い込んでいる人は少なくありませんが、相続が発生する前からしっかり備えておくことがとても大切です。
遺産相続で揉めるのはお金持ちだけではない
「ウチには争うほどの遺産はない」、「相続争いは裕福な家庭だけの問題」と思っている人も多いと思いますが、実はそうではないのです。
下の表は、司法統計(平成29年)で公表されている遺産の価格ごとの遺産分割調停の申立件数をまとめたものです。
参考:裁判所「平成29年司法統計年報(家事事件編第53表)」に基づいて作成
この表をみてもわかるように、裁判所に持ち込まれる相続争いの多くは、富裕層の相続争いよりも、ごく一般的な世帯の相続争いの方が圧倒的に多いのです。
遺産分配で生じやすいトラブル
遺産の相続をめぐるトラブルは、
- ・予定していなかった相続人が現れる場合
- ・相続を有利に進めようと被相続人の生前に問題のある対応をした場合
- ・被相続人と特別な関係にある相続人がいる場合
- ・相続財産が不動産しかない場合
といったことを原因に起きる場合が少なくありません。
生じやすい、いくつかのトラブルについて解説していきます。
以下では、相続をめぐる典型的な5つのケースについて解説を加えていきます。
1.代襲相続(だいしゅうそうぞく)
代襲相続とは、本来なら相続人であった者がすでに死亡している場合に、その子が相続することです。
つまり、被相続人が死亡した場合に、その甥や姪が相続する場合のことです。
しかし、甥や姪には、被相続人(や他の相続人)とは実生活上の接点が少ない者も少なくないことから、その他の相続人から「邪魔な存在」として扱われることも多いといえます。
そのため、
- ・被相続人の妻・子である他の相続人だけが、先行して遺産分割のための話し合いを行っている
- ・代襲相続人に遺産の状況が正しく開示されない
- ・法定相続分よりも少ない遺産で我慢するように他の相続人から圧力をかけられる
- ・白紙の遺産分割協議書に署名・押印を求められた
といったトラブルが起きることが想定されます。
2.相続人の欠格・相続人の廃除
相続は「お金だけが問題じゃない」という人も少なくありませんが、他方で「1円でも多くの遺産を相続したい」と考える人も少なからず存在します。
遺産相続を少しでも有利に進めようと、下に示すような問題のある対応をしてしまう相続人が現れることもあります
- ・被相続人に脅して遺言書を書かせる(取消し・変更させる)
- ・相続人を騙して遺言書を書かせる(取消し・変更させる)
- ・被相続人を殺害する(殺害しようとする)
- ・他の相続人を殺害する(殺害しようとする)
- ・すでに作成された遺言を改ざん・破棄・隠匿する
これらの行為を行った相続には、相続人としての地位を失います。
これを「相続人の欠格」といいます。
また、相続人が被相続人を虐待したり、侮辱しているようなときには、家庭裁判所への申し立てによって「問題のある相続人の相続権を剥奪」することも可能です。
これを相続廃除といいます。
ただし、相続人の欠格・廃除が生じた場合には、その相続権は、代襲相続人が受け継ぎます。
3.被相続人から特別の便宜を受けた相続人がいるときには「特別受益」が問題となることも
「特別受益」とは、相続人が被相続人の生前のうちに、生前贈与で多額の財産を取得していた場合や、死因贈与・遺贈によって他の相続人よりも多額の遺産を取得した場合を指し、しばしば問題となります。
すでに他の相続によりも多くの遺産を受け継いだ相続人がいる中で、残りの遺産を法定相続分で相続すれば、相続人の間に不公平が生じるからです。
特別受益があるときには、遺産分配の際に、特別受益を得ていた相続人の分け前を減らして対処するのが一般的です。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
たとえば、被相続人が2,000万円の財産を残して死亡し、相続人が長男Aと長女Bの2名であるというケースで説明してみましょう。
特別受益がない場合であれば、この場合のAとBの法定相続分は、それぞれ1/2ずつとなり、1,000万円ずつを相続することになります。
しかし、被相続人が生前のうちに長男Aにだけ自宅購入資金として2,000万円を譲渡していたという場合であれば、法定相続分どおりに相続させると
Aは合計で3,000万円の財産を与えられたのに対し、Bは1,000万円しか被相続人から財産を与えられていないことになり、不公平となります。
この場合に、特別受益分である2,000万円を、相続財産に加え直して相続分を計算することを「特別受益の持ち戻し」とよんでいます。
持ち戻しをした場合には、相続財産は、2,000万円+2,000万円の4,000万円となるので、A、Bそれぞれの法定相続分は、2,000万円ずつとなります。
上のケースであれば、Aは生前に2,000万円を被相続人から受け取っていますから、被相続人の遺産が2,000万円しかない状況では、「死亡後の遺産分配は0円」となります。
以上のように、特別受益があるときには、遺産分配の結果に大きな影響を与えることがあります。
実際の相続のケースで特別受益が問題となるのは、
- ・特別受益の存在がすべての相続人に明らかでない場合
- ・被相続人が持ち戻しの免除をしていたかどうかが明らかでない場合
- ・特別駅の程度(評価額)に共通認識がない場合
です。
たとえば、被相続人が他の家族に内緒で、次男の事業のために資金を捻出していたことを、他の家族(妻や他の兄弟)は疑っているが、確たる証拠がないという場合などには、相続の際に大きなトラブルとなりやすいといえます。
利益を受けている側とすれば「他の相続人が知らないなら黙っておこう」と考えることも少なくないでしょうし、他の相続人は「本当のことを言ってくれない」と感じることで、不信感をもつこともあるからです。
また、特別受益の存在が周知の事実でないときには、特別受益があったかどうかだけでなく、「その金額がいくらであったか」ということでも争いが生じやすいといえます。
特別受益の存在が他の相続人にも明らかであるときにでも、被相続人が持ち戻しを免除しているかどうかで争いが起きることがあります。
被相続人となる人が持戻しの免除するときには、すべての相続人にその意向が正しく伝わるような方法で意思を表明すべきでしょう。
4.被相続人に貢献した相続人がいるときには「寄与分」が問題となることも
寄与分とは、遺産の形成に特別の貢献をした相続人に対する「特別の取り分」のことです。
たとえば、被相続人(父)の事業を、長男Aだけが手伝っていたという場合には、父の遺産は、事業の成果でありAの貢献がなければ、もっと少なかったとも考えられるわけです。
事業に貢献があったAが他の相続人と同じ取り分というのでは、公平な相続とはいえないわけです(もっともAがそれでかまわないのであれば、問題ありません)。
そこで、このような場合に、Aの貢献によって遺産が増加した分については相続分から控除するというのが「寄与分」です。
上のケースのほかに寄与分が認められる例としては、
- ・特定の相続人が特に被相続人の看病や介護をしていた
- ・特定の相続人が被相続人の生活を支援(生活費の補填など)していた
という場合が考えられます。
しかし寄与分の存在は、他の相続人から否定されることは少なくありません(たとえば、「被相続人の支援をしていたのはその相続人だけではない」というような反論がなされうる)。
寄与分を認めれば、他の相続人の相続分が減ってしまうからです。
また、寄与分の存在を認めたとしても、具体的な評価額で同意が得られないということも珍しくありません。
多くのケースでは、寄与分は、「誰にもわかる金額」ではなく、過去の事情を総合的に判断した文脈の中でしか判断できないもの(評価の問題)だからです。
5.相続財産が不動産しかない場合
「相続財産が不動産しかない」というときにも遺産分割は争いになりやすいといえます。
不動産は「わける」ことが簡単な財産ではないからです。
相続人全員がその不動産を利用する必要がないのであれば、売却代金を相続人に分配すればよい(換価分割)のですが、不動産を利用する(そこに住む)必要がある相続人がいる場合には、そうはいきません。
たとえば、
遺産が自宅しかなく、相続人が被相続人と同居していた妻、被相続人とは別に暮らしている長男、次男
というケースで考えてみましょう。
この場合には、遺産分配には次の選択肢があります。
- ・子(長男と次男)は、相続放棄して妻のみが不動産を相続する
- ・不動産を相続する妻が、子2人に相続分に相当する金銭を与える(代償分割)
- ・不動産の売却代金を相続人3人で分配する(換価分割)
- ・不動産をそれぞれの相続人の相続分で共有とする(共有分割)
上記の方法には、いずれの方法にも一長一短があり、後のトラブルの原因となることや、そもそも選択できない方法もあるでしょう。
不動産を相続する側に十分な蓄えがなければ、代償分割を選択することはできないからです。
一見、無難な方法にみえる共有分割にも、
- ・居住しない相続人は、利用しない不動産のために固定資産税を負担しなければならない
- ・住宅の処分行為は共有者全員の合意が必要
- ・将来さらに共有関係が複雑になる可能性がある(子が死亡して配偶者が相続する場合)
- ・共有者には、「共有物分割請求権」がある(共有不動産の分割を求められたら売却するほかない)
といった問題点があります。
実際には、安易に法定相続分で共有にしてしまうケースも多いようですが、共有という権利関係は、さまざまな点で不安定なので、実務的にはあまりオススメできないケースが少なくありません。
目先の手続きではなく、先のことも見据えて慎重な対応をすることが重要です。
2018「相続法」で抑えておきたいポイント4つ
2018年には、約40年ぶりとなる相続法( 法務省: 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正))の改正法が成立しました。
今次相続法改正は、現代事情に相続法の規定を合わせるために行われたもので、内容は多岐に渡ります。
そのうち「相続分」との関係で抑えておきたいのは、次の4点です。
- 相続における配偶者の地位が強化されたこと
- 遺産分割前でも被相続人名義の預貯金を一部引き出せるようになったこと
- 相続人以外の親族が被相続人に貢献した場合には寄与分を主張できるようになったこと
- 遺留分侵害額請求権が新設されたこと
1.相続(分)における配偶者の地位が強化された
今回の相続法改正では、次の内容によって配偶者の地位がさらに強化されました。
- ・配偶者居住権の創設
- ・婚姻20年以上の配偶者への自宅の生前贈与は特別受益の対象外となる
配偶者居住権とは、簡単にいえば「所有権とは別に相続不動産に配偶者が(死亡するまで)無償で住み続けられる権利」を法定化したものです。
配偶者居住権が創設されたことによって、配偶者は不動産の所有権を子に相続させることによって、金銭などの他の相続財産を多く取得できるようになりました。
たとえば、妻・子2人が相続人で、自宅(評価額1,000万円)と預貯金1,000万円が相続財産であるという場合には、自宅に配偶者居住権を設定した上で子2人に相続させることで、預貯金1,000万円の全額を(今後の生活費)として配偶者が相続するとすることが可能となります。
配偶者居住権は登記を経れば、第三者にも対抗することができるため、万が一、子がマイホームを売却した場合でもその家に無償で住み続けることが可能となります。
他人(配偶者)がタダで住み続けられる不動産を買う人はほとんどいないでしょうから、相続財産である自宅の評価額も当然目減りします。
その点で、自宅を相続する子にとっても相続税の節税になるというメリットがあります。
とはいえ、所有権を確保しながら生活費も相続できる方が、配偶者の今後の生活のためにメリットが大きい場合もあるので、配偶者居住権を設定するときには弁護士などの専門家に相談してから行った方がよいでしょう。
なお、配偶者居住権の施行日は、2020年4月1日です。
また、2019年7月1日から、婚姻から20年以上経過した配偶者へは、自宅を生前贈与しても特別受益とはならなくなりました。
特別受益の対象外になったことで、自宅の所有権を贈与された配偶者でも、他の相続財産を今まで以上に多く取得することができるようになります。
2.遺産分割前の預貯金の一部引き出しが可能に
2019年7月1日からは、遺産分割の成立前であっても、被相続人名義の預貯金の一部を出金できるようになりました。
それまでは口座名義人が死亡した際には、その人の預金口座は凍結され、預金の引き出しには、相続人全員での手続きか、遺産分割手続きの実施が不可欠でした。
そのため、治療費・入院費の精算や葬儀代の支払いに不便である、被相続人の収入に頼っていた相続人(被相続人の扶養家族)の生活が窮するとの指摘がなされていたことに対応するための改正です。
なお、この制度によって出金(仮払い)できるのは、法定相続分の1/3までの金額に限られるのが原則です。
3.相続人以外の寄与分
被相続人の療養・介護・看護は、常に相続人が行っているというわけではありません。
たとえば、遠くに住んでいる子ではなく、被相続人よりも先に亡くなった子の配偶者が同居していて献身的に被相続人の世話をしたというケースは珍しくないでしょう。
※子が存命であれば、その妻の介護による寄与は、子の寄与分として考えることができます
しかし、従前であれば、これらの「相続人ではない親族」は、どれだけ尽くしても相続分を得ることはできませんでしたが、2019年7月1日より「特例寄与料」を請求することができるようになりました。
4.遺留分についての改正
これまでは不動産が相続財産に含まれる場合の遺留分減殺請求は、遺留分の計算やその後の手続きとても複雑でした。
不動産について遺留分減殺が認められたときには、不動産そのものを取り戻すことになり、それぞれの持分による共有となり、現金化するためには、共有物分割請求などの手続きを経なければならなかったのです。
2019年7月からは、遺留分を侵害されたときには、その侵害分について「金銭の支払いを求める」という形で請求をすることが可能となり、手続きが非常に簡単となりました。
遺産相続でもめないための3つの対処方法
遺産相続でトラブルが起きれば、今後の家族関係、親戚付き合いに大きな悪影響が生じてしまうことも少なくありません。
また、遺産相続のトラブルは、精神的な負担も大きく、それが原因で鬱のような症状がでてしまうという人も珍しくないようです。
そこで、遺産相続でトラブルにまきこまれないために、事前にとることのできる3つの対応について解説していきます。
1.正しい知識を得ることが一番大切
遺産相続でのトラブルを回避するために最も重要なことは「正しい知識」を身につけることです。
遺産相続は、人生の中で何度も経験することではなく、予期せぬタイミングで相続が発生することも珍しくありません。
そのため、「何も知らないまま相続を開始してしまった」ことが原因で、トラブルが生じるということは、よくあることです。
たとえば、遺産分割協議を相続人全員で行うべきということは知っていても、そもそも相続人の範囲がどこまでかということを知らなかったことで、代襲相続人や包括受遺者を欠けたまま遺産分割協議を行ってしまうこともあるでしょう。
また、遺留分や法定相続分について正しい知識をもっていれば、「他の相続人をいたずらに刺激してしまうような取り分の主張」をしなくて済んだということもあるかもしれません。
特別受益や寄与分についても、正しい知識がないことが原因で、トラブルがより深刻になってしまうこということは十分に考えられるところです。
2.他の相続人と普段からコミュニケーションをとる
遺産分割をめぐる相続人間同士の争いごとは、「相続分が多いかどうか」だけでなく、「感情的なもつれ」を原因とすることも少なくありません。
たとえば、家を出て独立してから、ほとんど実家にも戻らず、被相続人の世話も全くしないのに相続だけは同じ取り分となるということに、憤りを感じるケースでは、実際には「相続分の多さ」よりも「家族としてきちんと果たすべきことを果たしてこなかったこと(その分私の負担が増えた)」ということへの不満の方が強い場合も多いでしょう。
このような不満は、相続人同士のコミュニケーションを密にしていくことで小さくできる場合が少なくありません。
実家に帰ってこられない事情を知ることができれば、憤りが小さくなることもあるでしょうし、逆に、こちらの苦労を他の相続人に理解してもらえれば、「自分は法定相続分よりも少なくて良い」、「十分な寄与分を主張してほしい」と遺産分割の場面で譲歩してもらえることも期待できるようになるからです。
相続争いは、「家族だから口に出して言わなくても伝わるだろう」という思い込みが、トラブルの原因となっていることも少なくないのです。
3.遺産分割を弁護士に依頼する
相続人同士で話し合いをすることは、費用がかからない反面、リスクもあります。
たとえば、法律の素人である人が遺産分割協議にのぞんだことで、「本人は満足(納得)しているけど、本当は損をしていた」という場合もあるかもしれません。
また、家族・親族だから感情的になってしまうということもあるでしょう。
弁護士に遺産分割の協議を依頼すれば、これらのリスクを解消することができます。
「弁護士に依頼したら他の相続人を刺激するのではないか?」と不安に感じる人も多いかもしれませんが、相続事件の経験の豊富な弁護士であれば、他の相続人がそのような警戒感を持つことは理解しているので、きちんと対応してもらえます。
それよりも、専門知識を持った第三者が協議に加わることで、冷静で現実的な話し合いができるようになるメリットの方が大きいといえるでしょう。
遺産相続の相談は専門家に相談しましょう
遺産相続は、手続きやルールが複雑なものが少なくありません。
ルールや手続きをしらなかったことで、「余計な税金が発生」したり、不利な結論になったりしてしまうことも少なくありません。
わからないこと、困ったことが起きたときにはできるだけ早く専門家に相談することが大切といえます。
相談内容によって変わる相談先
相続に関する問題は、さまざまな専門家に相談することができます。
下の表は、それぞれの専門家ごとに相談・依頼できる内容を簡単にまとめたものです。
専門家の種別 | 相談・依頼できる主な内容 |
弁護士 | ・遺言書作成
・遺言執行者の就任 ・遺産分割協議(調停・審判)の代理人 ・相続放棄の手続き ・相続人・相続財産の調査 ・遺留分減殺請求 ・事業承継 |
税理士 | ・相続税
・生前贈与 ・確定申告 |
司法書士 | ・不動産の相続登記(所有権移転登記)
・不動産の抵当権抹消登記 ・遺言書作成 ・遺産分割協議書の作成 ・相続放棄 |
行政書士 | ・遺言書作成
・遺産分割協議書の作成 ・相続人調査 ・車や株式の名義変更 |
遺産分配を弁護士に依頼するメリット
遺産分配の問題を弁護士に相談・依頼する最大のメリットは、「手続きの代理」を依頼できるということです。
司法書士や行政書士は、相続人の調査を行ったり、すでに確定した遺産分割行儀の内容を書面にしたりすることは可能ですが、相続人に代わって、遺産分割協議、家庭裁判所の調停・審判に出席することはできません。
また、相続問題は、民法(相続法)改正の件もあり、新しい実務上の基準(判例)も今後ますます増えていくと思われます。
弁護士に依頼をしていれば、新しい判例にもきちんと対応してもらえるので「知らなかったことで損をする」という事態も避けることができます。
さらに、弁護士に依頼することで、「感情的な議論」や「一方的な議論」を回避することができ、「相続争いそれ自体を回避できる可能性が高くなる」場合も多いでしょう。
遺産分割について弁護士に依頼した場合の費用
遺産の分割協議を弁護士に依頼した場合には、弁護士に対して支払う費用(報酬金)が発生します。
遺産分割について弁護士に依頼した場合には、弁護士に支払う費用としては、次の費目がかかります。
- ・相談料(初回は30~60分まで無料の事務所が多い。1時間1万円が相場)
- ・調査手数料(相続人、相続財産の調査を依頼したときに発生10~20万円程度)
- ・書類取り寄せの手数料(書類1通ごとに発生する場合が多い)
- ・着手金
- ・報酬金
- ・日当(弁護士が事務所外で対応しなければならない場合に発生、1日3~5万円)
以下では、弁護士費用の中で特に重要な着手金と報酬金について解説します。
遺産分割を依頼したときの着手金
「着手金」とは、弁護士に事件を依頼したときに発生する「契約金」のようなものです。
そのため、着手金は依頼業務が失敗に終わった場合でも必ず発生する費用です。
遺産分割協議を弁護士に依頼した場合の着手金の金額は、従前は、係争利益(相続財産の価額)に応じて決められていましたが、最近では、固定額とする事務所も増えています。
したがって、それぞれの事務所の報酬体系は必ず確認する必要があります。
また、遺産分割協議の着手金は、手続きの段階ごとに別途発生する場合もあります。
たとえば、任意の遺産分割協議から調停・審判に移行した場合には、別途着手金を支払う必要があるということです。
この点についても、それぞれの事務所でかなり違いがあるので、依頼する前にしっかりと報酬体系を確認しておくことが大切です。
なお、固定額の事務所の場合には、
- ・遺産分割協議のみ:15~20万円程度
- ・遺産分割調停のみ:20~30万円程度
- ・遺産分割協議+遺産分割調停まで:30万円程度
- ・遺産分割審判:20~30万円(協議・調停とは別に発生する事務所がほとんど)
- ・審判に対する異議申立て:審判の着手金と同等額が別途
という設定の事務所が多いようです。
遺産分割を依頼したときの報酬金
弁護士に支払う報酬金には、
- ・基本報酬:協議がまとまった(和解成立)、有利な審判を得られたときに発生する報酬
- ・成功報酬:実際に手にした相続分などに応じて発生する歩合制の成功報酬
があります。
基本報酬は、相続財産(相続分)の価額に応じて決められる事務所もあれば、固定額としている事務所もありますし、基本報酬はもらわないという事務所もあるようです。
成功報酬については、依頼人が得た利益の10%前後に設定されている事務所が多いようです。
しかし、「依頼人が得た利益」の計算方法は、
- ・依頼人が得た相続分の金銭評価額に基づいて計算する
- ・受任前に提示されていた相続額と実際に獲得できた相続額との差額
というように、事務所によって計算方法に違いがあるようです。
また、利益に対する歩合分についても、利益の金額に応じて変動するという事務所も少なくないので、一概にいくらくらいが相場と示すことは適当ではないといえます。
この点についても、きちんと依頼前に個別に確認しておき、具体的な見積額を示してもらうことが大切です。
まとめ
遺産分配は、1度もめてしまうと深刻なトラブルに発展してしまうことが少なくありません。
遺産分配でもめたことがきっかけで、家族・親族なのに付き合いが途絶えてしまったというケースも数多く目にします。
他方で、遺産分配をめぐるトラブルは、事前にしっかりと対処すれば回避できたはずというケースも数多くあります。
知識がないことや、感情的になってつい言ってしまったひとことがきっかけでトラブルに発展することもあるからです。
これらも問題は、専門家を上手に活用することで回避することができます。
遺産分配について、わからないこと、不安なことがあるときには、できるだけ早いうちに専門家に相談してみることをオススメします。