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空き家法という法律が施行されたようだけど、どんな内容の法律なのだろか?
と思っている空き家所有者は多いと思います。
空き家法は、空き家所有者にとっては注意しなければならない、正しい知識を持っておかなければならない法律です。
所有している空き家に空き家法が適用されると、経済的な面でも厳しい不利益処分が下されてしまうかもしれないからです。
そこで、今回は、空き家法(空き家対策特別措置)について、
- ・空き家法の概要
- ・空き家法に基づいて「特定空家」に指定されるとどうなるか?
- ・特定空家に指定されないためにはどうしたらよいか?
といったことについて解説していきます。
所有している空き家の管理が面倒だから放置したいと考えている人、近い将来使う予定の全くない空き家を相続する可能性のある人は参考にしてみてください。
もくじ
空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)の概要を解説
最初に、空家法がいつ、どんな目的で制定され、どのような内容を定めた法律であるかを確認しておきましょう。
空家法はいつ施行された?
空き家問題は、以前から問題とされてきたものです。
そのため全国の自治体の多くは、空き家法が制定・施行される前から空き家問題対策のための条例を制定し、対応にあたってきました。
また、空き家が老巧化し危険な状況に陥った場合には、建築基準法に基づいて自治体が代執行を行う対応もしてきました。
しかし近年の空き家問題は、上記の対応では必ずしも十分に対応できないケースも多く、空き家法が平成26(2014)年に制定することになりました。
その後、周知期間を経て、平成27(2015)年5月に完全施行(本法は平成27年2月施行)となっています。
空家法が改正された背景
空家法は、少子高齢化が進んだことなどを背景に、「危険な空き家」が増えて近隣住民や周辺環境に悪影響を与えることを予防する目的で制定された法律です。
実際日本では、空き家は年々増え続けています。
総務省が行った統計調査(平成30年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計 結果の概要(PDFファイル))によれば、昭和38年の空き家の数は52万戸(住宅全体の2.5%)だったものが、平成10年には、576万個(11.5%)となり、平成20年には757万個(12.1%)、平成30年には846万個(13.6%)となっています。
今後人口がさらに減っていくことが想定される中では、空き家はさらに増えていくことはほぼ確実でしょう。
このようなことを背景に空き家が増え続ければ、「適切な管理もされずに放置されているだけ」の空き家も増えていきます。
たとえば先の総務省調査では、賃貸用の空き家(借り手の見つかっていない空き家)の割合が減っている一方で、「賃貸用でも売却用でも別荘用でもない用途の定まっていない可能性の高い空き家」の割合が増えていることも示されています(平成10年31.7%から平成30年41.1%)。
利用される予定のない空き家が増えれば、「適切な管理のなされない空き家」も増えていきます。
今後使うつもりが全くない空き家のために、手間暇を掛けて手入れをしようと考える人は必ずしも多くないからです。
しかし、管理がされないことで下記のようなリスクが高くなってしまいます。
- ・災害などによる倒壊
- ・ホームレスのたまり場となる
- ・犯罪行為に利用される
- ・放火などの対象となる
- ・汚臭や害虫が発生する
そこで、そのような「危険な空き家をこれ以上増やさない」、「管理されない空き家によって周囲に迷惑が生じた時に対処する仕組みを定める」ために制定されたのが、いわゆる空き家法です。
空家法で決まった内容とは?
空き家法で定められた内容は、次のようにまとめることができます。
- ・国は「空家対策」基本方針を定めなければならない
- ・自治体に空家対策についての計画を定める権限を付与
- ・自治体に空家についての調査権限を付与
- ・空家などについてのデータベースの整備
- ・自治体に管理が行き届いていない危険な空家に対する措置(特定空家指定・不利益処分など)を行う権限を付与
上のうちで特に重要なのは、危険な空家(特定空家)に必要な措置を講じることのできる制度です。
自治体から特定空家に指定されると、自治体による助言・指導・勧告・代執行が行われたり、固定資産税の控除措置が解除されるといった措置を講じられてしまいます。
空家法の影響を受ける人は?
空き家法ができたことで最も大きな影響があるのは、「空き家の管理作業を定期的に行うことの出来ない所有者」です。
空き家の管理が行き届かないことが原因で特定空家に指定されると、次のような不利益を受ける可能性が生じるからです。
- ・空き家の管理を行うように指導などを受ける
- ・空き家への固定資産税の減税措置が打ち切られる
- ・空き家に必要な管理を自治体が強制的に行い費用を請求される
空家法の改正で実際に効果はあったのか?問題点は?
空き家法は、「法律上の拘束力のあるルールのなかった空き家問題」について、法律によるルールが定められたという点では、とても意義のある法律です。
自治体は空き家法制定以前からも空き家問題について一定の対応をしてきていましたが、法律がないことが原因で明確な限界があったからです。
たとえば空き家法がなかったときには、「行政が空き家を強制解体する」ことは、よほどの事情がない(他の法令に抵触するような特別の問題がない)限りは、実施が難しいといえたでしょう。
また、空き家調査のために必要な措置についての権限が自治体に付与されたことも、一般市民には直接の大きな利益が生じないことかもしれませんが、制度としては大きな意味があります。
管理が放置された危険な空き家には、「所有者を簡単に見つけることの出来ない(所有者不明の)空き家」も少なくないからです。
他方で、ウェブ上には「空き家法は効果がない」と指摘するサイトもあるようです。
たしかに、国土交通省が公表している資料から見ても、実際に自治体による強制的な建て壊しをした事例は数十件程度にとどまっています。
自治体の担当者などには「新しい制度への対応に困惑している、慣れていない」といった問題を認識している人も多いようです。
また、空き家法それ自体は「空き家所有者の負担」を減らしてくれるものでもないので、空き家所有者にとっても「余計な法律を作って」と考える人もいるかもしれません。
しかしそもそも空き家問題は、「私的所有権」という絶対的に保護されるべき権利に密接に関係するとてもデリケートな問題です。
「行政庁は私的所有権に必要以上に干渉すべきではない」という法律の原則論を考えれば、代執行という最終的な解決方法は、用いられずに済むのが理想ともいえます。
実際に、空き家法が制定されたことで自治体が空き家所有者に「自己解決に向けた働きかけ」を積極的にできる基盤ができ、解決に向かった事例も少なくないと思われます。
さらに空き家法が制定されたことをきっかけに、所有者が空き家問題を解決するために必要な資金を助成する補助金制度・支援制度を拡充・創設する自治体が増えたことも事実です。
実は、空き家所有者にとっても、空き家法は負担だけが増えた法律とはいえないのです。
少なくとも、自治体が発令した命令の件数や、実施した代執行の件数、解決まで時間がかかることといった点だけを切り取って、「空き家法は効果がない」と断言するのは、早計な議論といえるでしょう。
どのような制度でも「万能・万全」なものはありません。
空き家法にも当然限界があります。
空き家法は「空き家の問題を解決(予防)していく」ための大きな起爆剤にすぎません。
今後、自治体と地域住民が協力して、さらに取り組みを深めていけるかどうかが、空き家法制定の成否を決める重要なポイントになるといえるでしょう。
特定空家に指定される条件は?
空き家のすべてが、空き家法による不利益処分の対象となるわけではありません。
空き家法による不利益処分が行われるためには、その前提として空き家が自治体から「特定空家」として指定される必要があるからです。
どんな空き家が「特定空家」とされてしまうのか?
特定空家に指定されるのは、「管理が十分になされておらず周囲に迷惑をかける(可能性の高い)空き家」です。
空家法では、周囲に迷惑を掛ける空き家であるか否かの判断基準は、以下の基準に照らして判断されると定められています。
- ・管理を放置し続ければ空き家が倒壊するなどして、保安上の危険が生じるおそれがある
- ・管理を放置し続ければ、著しい衛生上の問題が生じるおそれがある
- ・適切な管理が行われていないことにより、著しく景観を損なっている状態にある
- ・その他周辺の生活環境の保全を図るために、放置することが不適切である状態にある
たとえば、下記のような状況にあるときには、特定空家に指定される可能性が高いといえます。
- ・柱が傾いているのに修復しない
- ・屋根が変形している、雨どいが垂れ下がっているのに修復しない
- ・壁に穴が空いているのに修復しない
- ・バルコニーの腐食が激しいのに修復しない
- ・ゴミなどの放置により害虫や悪臭が発生しているのに対処しない
- ・窓ガラスが何枚も割れているのに放置している
- ・立木などが建物の全面を覆う程度まで生い茂っているのに放置している
- ・敷地内に山積みされているゴミなどを放置している
- ・立木の枝などが近隣の道路・敷地などにはみ出して通行などの妨げになっている
自治体による事情の把握(調査)
自治体には、空き家・特定空き家の状況を把握するために必要な調査権限が与えられています。
たとえば自治体には、空き家の実際の状況を把握するために必要と認められるときに空き家(や空き家のある敷地)に立ち入って調査を行うことが認められています。
この立ち入り調査は、所有者に実施の5日前までの通知することが原則ですが、通知が困難な場合には通知なしの実施も可能です。
また、所有者は立ち入り調査を拒むことはできません。
さらに、所有者が遠方に住んでいるなどの事情があり所有者を直ちに特定することができないようなときには、他の行政機関(たとえば都道府県)が他の目的で保有する空き地に関する情報(固定資産税課税のための情報など)の提供を受けることができます。
特定空家に指定されるとどうなるのか?
特定空家に指定された場合でも、すぐに不利益な処分が行われるわけではありません。
空き家に生じている問題は、「空き家の所有者が自ら解決する」(行政(自治体)が私人の私的財産に不必要に干渉することは慎むべき)というのが基本的な考えだからです。
特定空家に指定されると、問題を解決するための「助言・指導」を受ける
自治体が特定空家の指定を行ったときの最も基本的な対応は、「助言または指導」です。
つまり、自治体が空き家の所有者自らの手で状況を改善するように働きかけをするということです。
自治体からの助言・指導は、
- ・どの建築物等が特定空家等として助言又は指導の対象となっているのか
- ・当該特定空家等が現状どのような状態になっているのか
- ・周辺の生活環境にどのような悪影響をもたらしているか
- ・具体的な改善措置の例
を明示した書面を特定空き家の所有者に送付することで行われるのが一般的とされています(電話・口頭で行われるケースもあるかもしれません)。
たとえば、
「〇〇市☓☓町1番の特定空家の敷地の立木の枝が隣接する道路まで延びていて通行の妨げになっているから枝を伐採してください」
「空き家の屋根の傷みが激しく、台風などが来たときに屋根吹き飛び、周囲に危険をもたらす可能性が高いので修繕してください」
という通知文が届くといったことをイメージしておくと良いでしょう。
自治体からの働きかけで所有者がきちんと対応すれば、それ以上手続きが進むこともありません。
自治体の助言・指導を無視すると生じる影響
自治体からの助言や指導がなされてもなお、問題が解決しない(所有者がきちんと管理しない)ときには、所有者に対する「不利益処分」が行われます。
空き家法に基づく、特定空き家所有者に対する不利益処分には、以下の3つの処分があります。
- ・勧告
- ・命令
- ・代執行(強制執行)
自治体から「勧告」を受けると固定資産税が3~6倍に跳ね上がる
「勧告」は、自治体が助言または指導をしてもなお特定空き家の状況が改善されないときになされる処分です。
実際に自治体から送られてくる勧告書は、下記のような文書です。
勧 告 書
貴殿の所有する下記空家等は、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号。以下「法」という。)第2条第2項に定める「特定空家等」に該当すると認められたため、貴殿に対して対策を講じるように指導してきたところでありますが、現在に至っても改善がなされていません。
ついては、下記のとおり速やかに周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう、法第14条第2項の規定に基づき勧告します。 記
1.対象となる特定空家等 所在地 ○○市××町×丁目×番地×号 用 途 住宅 所有者の住所及び氏名 ○○市○○町○丁目○番地○号 ○○ ○○ 2.勧告に係る措置の内容 (何をどのようにするのか、具体的に記載) 3.勧告に至った事由 (特定空家等がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているかについて具体的に記載)、 4.勧告の責任者 ○○市○○部○○課長 ○○ ○○ 連絡先:○○○○-○○-○○○○ 5.措置の期限 令和○年○月○日
・ 上記5の期限までに上記2に示す措置を実施した場合は、遅滞なく上記4に示す者まで報告をすること。 ・ 上記5の期限までに正当な理由がなくて上記2に示す措置をとらなかった場合は、法第14条第3項の規定に基づき、当該措置をとることを命ずることがあります。 ・上記1に係る敷地が、地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2又は同法第702条の3の規定に基づき、住宅用地に対する固定資産税又は都市計画税の課税標準の特例の適用を受けている場合にあっては、本勧告により、当該敷地について、当該特例の対象から除外されることとなります。 |
※国土交通省「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)で示されている様式例を参考に作成したものです。
勧告は「相当な猶予期間」が定められる
勧告を行う場合は、その特定空家等の所有者等に対して、問題とされる状況を改善することができるだけの「猶予期間」が必ず与えられます。
通知から勧告実施までの猶予期間は、「所有者が実施しなければならない措置の程度」によって異なります。
たとえば、問題除去のために壁の穴を塞ぐための補修工事をしなければならないときと、道路まで延びきった立木の枝を伐採しなければならない場合には、当然、前者のケースの法が猶予期間も長くなります。
猶予期間内に所有者が措置を講じないときには、「空き家の固定資産税」が高くなる
特定空き家の所有者が自治体から勧告を受けると、「空き家の固定資産税が高くなる」という大きな不利益処分を受けることになります。
居住用建物の土地については、「住宅用地特例措置」という減税措置がとられており、下記のように定められています。
- ・200平方メートルまで土地は固定資産税が1/6に軽減
- ・200平方メートルを超える土地は固定資産税が1/3に軽減
空き家法に基づく勧告を受ければ、自治体から税務担当部署に通知がなされ、この「住宅用地特例措置」の適用除外となってしまいます。
つまり、特定空き家とされたまま何もせずに放置していると固定資産税がかなり跳ね上がってしまう可能性があるということです。
勧告をしても改善されないときには「命令」が下される
勧告がなされてもなお空き家から生じる問題が改善されないときには、自治体から改善措置を行うよう命令を下される場合があります。
命令が発令される手続きは、基本的には勧告の場合と同様です。
ただし、命令発令の段階では、特定空き家の所有者は自治体に対して意見を述べる(ための公開の手続きを要求する)ことができます。
このような反論措置が認められるのは、命令に違反(無視)した場合には、
- ・50万円以下の過料(※罰金ではないので「前科」にはなりません)
- ・自治体による代執行の実施
といった、さらに大きな不利益処分が実施される可能性があるからです。
命令に従わないときには、自治体による代執行(強制執行)が行われることも
自治体が命令を発してもなお空き家による問題が改善されないときには、自治体は、行政代執行法の規定にしたがって、空き家の所有者に代わって、問題解決のために必要な措置を執り行うことができます。
代執行にも限界がある
危険な空き家の周辺に住んでいる人にとっては、「行政の代執行」で問題を完全に解決してくれると期待している人もいるかもしれません。
しかし、代執行で行える措置には下記のような限界があることに注意が必要です。
- ・他人が代わってすることのできる義務(代替的作為義務)しか行えない
- ・当該特定空家等による周辺の生活環境等の保全を図るという規制目的を達成するために、必要かつ合理的な範囲内にとどめなければならない
たとえば、全く管理されないことで老朽化がとても進んだ空き家が倒壊することで、周囲に危険が及ぶことが想定される場合でも、「代執行ですぐに空き家を取り壊す」というのは、重大な危険が差し迫っている場合に限られると考えておいた方がよいでしょう。
建物を取り壊すことは、「私人の所有物を強制的に消滅させる」ことになるので、慎重に行われるべきだからです。実際にも、取り壊し以外の方法で、周囲に危険が及ぶことを回避できるのであれば、代執行の目的は達成できるといえます。
代執行にかかった費用は、所有者に請求される
代執行にかかった費用(作業にあたった人に支払う賃金・報酬、資材費用、代執行を行う際に第三者に迷惑を掛ける場合の補償費用)は、自治体から所有者に対して請求されます。
自治体に定められた納期限までに、代執行にかかった費用を所有者が支払わないときには、国税滞納処分の場合にならった方法(いわゆる滞納処分)で、強制的に徴収されます。
行政機関による滞納処分は、裁判を経ずにいきなり財産(給料や預貯金など)を差し押さえることが可能なとても強力な徴収方法です。
また、国税滞納処分で徴収される債務は、自己破産などの債務整理を行っても免除されることはありません。
過去に特定空き家に指定された実例と、代執行にかかった費用
特定空き家に指定された場合を具体的にイメージしてもらうために、空き家法に基づいて特定空き家に指定された実際の具体例を2つ紹介します。
※この記事で紹介するケースは、下記の国土交通省が公表している資料に基づくものです。他のケースについての紹介もあるので、関心のある人は参考にしてみてください。
参考:国土交通省「地方公共団体の空き家対策の取組事例2」(PDFファイル)
1.埼玉県坂戸市のケース(物置の屋根ふき材の剥落・飛散防止措置など)
このケースは、平成30年1月に、物置の屋根ふき材の剥落及び飛散防止措置(メッシュシート掛け)と越境している立木等の剪定を行政代執行によって実施したものです。
問題となった物置は、昭和20年に建築されたもので、木造2階建ての物置としてはかなり立派なものです。
しかし、家主が管理を怠っていたため、敷地内の立木が物置全体を覆い隠すまで生い茂り、屋根のふき材が剥がれて周囲に飛散する危険が生じていました。
代執行までの大まかな流れは下記のとおりです。
- ・平成25年:近隣住民が自治体に物置に立木が生い茂っていることを通報(相談)
- ・平成26年:近隣住民が物置の屋根のふき材が接している通学路に飛散する可能性を通報(相談)
- ・自治体は、平成25年の通報後、所有者に対して複数階の行政指導を実施
- ・平成28年11月:空き家法に基づく助言・指導を実施
- ・平成29年2月:空き家法に基づく勧告を実施
- ・平成29年5月:空き家法に基づいて命令を発令
- ・平成30年1月:行政代執行実施
- ・措置にかかった費用:65万円
2.北海道旭川市のケース(倒壊の恐れの高い建物を取り壊したケース)
このケースは、平成29年12月に、倒壊の恐れの高い建物を行政代執行で取り壊したものです。
問題となった空き家は昭和54年に建築され、管理が行き届かない状態が続いたことで、すでに外壁が剥がれ落ちているなど、倒壊の危険性が高い状態にありました。
代執行までの大まかな流れは下記のとおりです。
- ・平成20年:外壁の剥落した空き家があることを近隣住民が通報(相談)。その後、行政は継続的に複数回の行政指導を実施
- ・平成27年10月:空き家法の施行を受けて、空き家法に基づく指導書を送付。自治体の働きかけにもかかわらず、所有者は経済的な理由(お金がない)で必要な措置を講ぜず。
- ・平成27年12月:1回目の勧告を実施
- ・平成29年2月:2回目の勧告を実施
- ・平成29年8月:命令の発令
- ・平成29年12月:行政代執行実施
- ・措置にかかった費用:410万円(費用は差押え(滞納処分)によって回収予定)
特定空き家に指定されないための4つのポイント
上で紹介したように、特定空き家に指定されれば、数百万円にもなる作業費用を自治体から請求されるリスクが生じます。
そこで、特定空き家に指定されてないための対策について確認しておきたいと思います。
特定空き家に指定されない基本は、「土地を手放す」か「管理をする」ことです。
1.空き家を処分する
管理が面倒と感じる、所有者にとって利用価値の高くない空き家は、処分してしまうことが最も無難な対処方法といえます。
通常の方法で買い手を見つけることができれば、不要な資産を現金に換えることが可能だからです。
「市場では買い手がなかなか見つからない」というときには、「不動産業者の買取」を利用することも選択肢のひとつです。
また、自治体の中には、一定の条件(接道など)を満たした空き地の寄付を受け付けているところもあります。
2.定期的に維持管理する
特定空き家は「適切な管理がなされない空き家等」が対象となります。
したがって、きちんと管理さえしていれば、何十年誰も住んでいない空き家であっても「特定空き家」として指定されることはありません。
また、上で紹介したケースもそうであったように、特定空き家の指定に至るケースのほとんどは、近隣住民からの通報(相談)がきっかけになっています。
遠方に住んでいて、頻繁に空き家の管理をすることが難しいというときには、近隣の住民と最低限のコミュニケーション手段を確保しておく(何かの時に連絡してもらえるようにする)だけでも、特定空き家の指定を避けられる可能性は高くなるといえます。
空き家の管理を行ってくれる業者もある
空き家の管理を自分で行うことが難しいときには、民間の空き家管理サービス業者に管理を委託することもできます。
空き家管理サービスにかかる費用は、委託する業務の内容(程度)によって異なります。
たとえば、「月1回の見回りと報告」だけで良いのであれば、月100円といった格安の料金で対応してくれるところもあるようです。
3.賃貸に出す
空き家にさほど傷みがない場合や、簡易なリフォーム(改修)で居住できる状態にできるときには、空き家を賃貸に出すことも有効な選択肢です。
「現に人が居住している物件」であれば、空き家法の適用対象とはならないからです。
4.解体して更地にする
空き家を完全に解体して更地にしてしまうことも、特定空き家の指定を回避する有効な方法といえます。
空き家が完全に除去された跡地は、指定空き家の適用対象外となるからです。
空き家の管理に困ったときには補助金を活用(自治体に相談)しましょう
空き家の管理に困ったというときには、自治体に相談してみるのが一番です。
空き家法に基づいて代執行を行うような事態は、自治体にとっても好ましい対処方法ではないからです。
自治体の中にも、空き家法が制定されたことで、空き家管理に関する補助金や支援制度を拡充させているところが増えてきているからです。
たとえば、空き家の解体工事の費用については、かなり多くの自治体が補助金(ただし限度額有り)の制度を設けています。
また、解体だけでなく、リフォーム費用についても補助金を交付してくれる自治体や、町内会などへの買取のあっせん、不要な空き家の寄付を受け付けている自治体もあります。
相続した空き家を処分したい場合の3つの対処法
「管理が面倒」と感じる空き家が発生する一番大きな原因は、相続です。
両親が住んでいた土地建物を相続したとしても、そこに引っ越して新しい生活をはじめるという人は多くないからです。
相続した不要な空き家を処分する方法としては、次の方法が考えられます。
- ・相続放棄する
- ・相続した空き家を売却する
1.相続放棄で空き家を処分するときの注意点
自分では使う予定のない空き家を相続したときには、「相続放棄」を選択することが考えられます。
たしかに、相続放棄をすれば、空き地は自分のものとならないので、最終的には、管理する責任も負わなくて済むからです。
実際に、空き家の増加に伴い、近年では相続放棄をする人が増えています。
ただし相続放棄をするときには、次の点に注意が必要です。
- ・相続放棄は、原則として、相続開始から3ヶ月以内に申請しなければできない
- ・相続放棄は、「すべての相続財産を放棄」しなければならない
- ・相続放棄をしても、相続財産管理人を選任しなければ管理義務はなくならない
まず相続放棄は、相続開始(通常は、被相続人の死亡)から3ヶ月以内に、管轄の家庭裁判所に申し立てなければなりません。
相続開始から3ヶ月(熟慮期間)以内に相続放棄の申し立てがないときには、すべての財産が相続された(単純承認された)とみなされてしまうからです。
「どうしても3ヶ月以内に決められない事情がある」というときには、予め家庭裁判所に「熟慮期間伸長も申立て」をしておく必要があります。
次に注意すべきは、相続放棄は「『すべての相続財産』について最初から相続しなかった」ことにする手続きであることです。
つまり、「いらない空き家は相続放棄するが、他の遺産(貯金など)は相続する(放棄しない)」ということは認められないということです。
最後に、注意すべきは、相続放棄をしても管理責任がなくならない(空き地方による不利益処分を受ける)場合があるということです。
この点については、民法940条が次のように定めています。
民法940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない |
つまり、相続放棄を家庭裁判所に申し立てたとしても、相続財産である空き家がきちんと他の相続人に相続される(相続登記がなされる、相続人による実効支配がなされる)までは、空き家の管理義務を免れない可能性があるということです。
また、自分以外に相続人がいないケースや、共同相続人全員が相続放棄した場合には、相続放棄だけでは管理責任はなくなりません。
相続する者がいないことで「空き家を管理すべき人」がいなくなってしまうことは問題があるからです。
この場合には、家庭裁判所に「相続財産管理人の選任」を申し立てる必要があります(相続財産管理人が選任されてはじめて管理責任がなくなります)。
2.不要な空き家で相続税を物納できる場合
実際に適用できるケースはあまり多くありませんが、不要な空き家で相続税を物納することで処分できる場合もないわけではありません。
金銭ではなく空き家を物納することで相続税を払うためには、以下の要件のすべてを満たす必要があります。
- ・延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合
- ・物納の対象となる空き家が、日本国内にあること
- ・物納の対象となる空き家が管理処分不適格財産(物納できない財産)に該当しないものであること(たとえば、土壌汚染のある土地に立てられた空き家などは物納できない場合がありますし、抵当権の設定された空き家や境界争いのある空き家も物納できません)
たとえば、「相続人に多額の負債があるため手持ちの現金が乏しくて相続税を支払いきれない」という場合には、空き家を物納することで、空き家の処分も相続税の支払いもまとめてできることもあるかもしれません。
3.相続した空き家を売却するなら早いほうが得な場合も
相続放棄できない事情があるときに、空き家を処分(売却・贈与)するしかありません。
相続した空き家を売却するときには、その譲渡利益について3,000万円の特別控除を受けられる場合があります。
つまり、特別控除を利用できるときには、譲渡利益が3,000万円以下なら税金はかからずに空き家を売却できるということです。
この特別控除を受けるための条件は下記のとおりです。
- ・相続した空き家が昭和56年5月31日以前に建築された一戸建てである
- ・相続した空き家には、相続開始直前には、被相続人以外の人が居住していない
- ・空き家の取得が被相続人からの遺贈または相続である
- ・上記の空き家もしくは空き家とともにその敷地を売却するか、空き家を解体の上で敷地を売却した
- ・空き家が一定の耐震基準を満たした建物である
- ・相続から売却までに居住もしくは事業用に利用されていないこと
- ・空き地を取り壊した場合には、譲渡のときまで他の建物や構築物が建てられていない
- ・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- ・売却代金が1億円以下であること。
なお、この特例は、(この記事作成の時点では)令和元年12月31日までの時限的な制度となっています。
条件に該当する人で相続した空き家を売りたいと考えている人は、できるだけ早く対応した方がよいでしょう。
参考:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
【番外編】長屋の一部が空き家になっている場合はどうなるのか?
いわゆる「長屋」は不要な空き家の典型例のひとつといえるでしょう。
かつては数多く建築された長屋ですが、いまではニーズに合致しない場合も多く、入居者が埋まらないまま管理が放置されているものも少なくありません。
他方で、低家賃の住居を離れられない人もいることから、入居者のいる部分は大丈夫だけど、何年も入居者がいない居住部分は手入れもされず、傷みが激しいというケースも珍しくありません。
長屋に空家法は適用されるのか?
空き家法は、「建物1棟ごと」に空き家であるかどうかを判断します。
したがって、長屋に1人でも居住者がいれば、空き家法の適用対象とはなりません。
とはいえ、自らが所有する建物が原因で、他人に損害を与えたときには、賠償義務が生じる(民法717条)ので、空き家法が適用されないから放置していて良いということにはなりません。
空き家法以外の法律・条例に基づいて代執行されることがある
自治体には、長屋に関する問題も空き家対策に関連する条例の対象としているものが少なくありません。
また、建物が崩れ落ちる危険性が高い長屋のようなケースでは、建築基準法などの空き家法以外の法律に抵触する場合もあります。
実際にも、一部が空き家となっている長屋について、条例や建築基準法を根拠に、自治体からの指導・勧告・代執行が行われた事例も存在します。
まとめ
空家法ができたことで「空き家は強制撤去される」と思い込んでいる人もいるようですが、そのようなことはありません。
空き家のすべての空家法が適用されるわけではないからです。
しかし、空家の管理は、思っているほど簡単なものではありません。
特に、遠方の空き家を所有しているときには、管理だけでもかなりの負担となります。
建物は居住していないというだけでも傷む速度が早いからです。
ところで、空き家の不備が原因で他人に損害を与えてしまったときには、所有者には無過失責任が生じます(民法717条)。
その意味では、自分では管理しきれなくなった空き家を所有してしまったときには、空家法の適用の有無を問わず、きちんと対処を考えるべきといえるでしょう。
いらない空き家の扱いに困ったというときには、まず自治体に相談してみましょう。
空家法ができたがきっかけで、さまざまな支援の仕組みを用意している自治体も増えています。